富裕層マーケティングコラム

「本当の富裕層」は見返りを早急に求めない

「与えよ、さらば与えられん」を地でいく

東京都港区に在住する勝田秀行さん(69、仮名)はベンチャーキャピタルの経営者だ。高い成長率が見込めそうなベンチャー企業に早い段階から出資し、経営コンサルティングなども絡めて成長を支援。企業価値を高め、株式公開や大手企業への売却などによって利益を得るという事業を手掛けている。

勝田さんは東京大学卒業後、大手通信会社で約30年勤務。ある化粧品会社創業者の長女と結婚し、52歳で同社を辞める直前の年収は2000万円前後で、退職金も3000万円を下らない額だったそうだ。これだけでも一般的なサラリーマンにはうらやましい話だが、独立後にベンチャーキャピタルの運営を始めてからは、さらに収入や金融資産が激増した。

今でこそITやスマホの普及によって技術系のベンチャーが脚光を浴びているものの、勝田さんが独立した2005年前後は、いわゆるベンチャー苦難の時代。資金集めに苦労していたベンチャーが多かった。そんな中、勝田さんの会社は自己資本を中心にしたベンチャー投資でスタートから3年程度で2社を上場に導く。現在の金融資産は奥様の分も含めて数十億円単位に上る。

とても理知的で物静かな性格の勝田さんは、ベンチャーキャピタルを運営するぐらいだからもちろん金融にも明るい。大学時代の同級生には政財官の大物がズラリと並ぶ。そんな勝田さんが最近、旧知の仲である私によく話すのが社会貢献の取り組みだ。

勝田さんはアジアからの日本への留学生、特にベトナムからの留学生と交流を深めている。学生によっては身元引受人もやっているという。

きっかけはベトナムの社会構造に注目しベトナムのベンチャービジネスに出資を始めたことだったそうだ。勝田さんはこう打ち明ける。「40年前の日本そっくりの人口構造なんだよね。人種も穏やかで勤勉。アジアへの投資を考えはじめたきっかけはそこなんだ。ラオスやカンボジアにも興味があるが、ビジネスのみならず自分でできるフィランソロピーを自分なりにやろうと思っていてね」

実際に身元引受人をした東大の女性大学院生はそのまま勝田さんの会社に就職、恩返しとばかり日本とベトナムの架け橋たらんと日本の技術移転などのコンサルタントとして大いに活躍している。

私はさまざまな富裕層との付き合いをもっているが、「与えよ、さらば与えられん」を意識して実践しているお金持ちは少なくない。

勝田さんは、なんと足かけ10年で100人もの留学生の世話人をしたのだそう。年に何度かホームパーティに招いて日本文化を啓蒙する、というようなことも進んで実施している。「フィランソロピーのつもりでやっているけれども、彼らが本国に帰ってから要職について事業相談を持ちかけられることが多くてね、『与えよ、さらば与えられん』を地でいってますよ」(勝田さん)。成功者の成功サイクルそのものだ。

 

温かい人間関係の構築

大資産家の勝田さんが、社会貢献に関心を持ち始めたのは還暦を迎えたころ。「幸せってなんなのだろう」と意識し始めた折に、ハーバード大学の長年の調査結果に触れたのがきっかけだった。「幸せの根源は結局心温まる人付き合い」。誰でも理解できそうな話を定量的に初めて分析した結果だったという。

その調査結果に触れて以降、「結局のところ温かな人間関係を構築していることや真心込めたお付き合いをしていることが、幸せである状態なのだ」との結論に至り、「笑顔でありがとう」を1日何回も言うことを心掛けているそうだ。

日本語にも「笑う門には福来る」という似たような意味合いをもつ普遍的な言葉がある。つまり「本当は誰でもできること」を「ほとんどの人がやっていない」から「誰にもできないくらいやってみる」という、富裕層独特の感覚がここにある。

数学でいえば難しい関数や微分積分ができなければならない、などというような考え方ではなく、誰でもできるはずの足し算引き算のレベルを極める、ということになるだろう。

勝田さんは言う。「他人のためになることを率先してできるか否か」「相手に与えられるなんらかの能力がなければ、しょせんは人間関係が長続きしない」「温かい人間関係を構築できるか否か、に結局行き着く」

これは資産形成や事業推進でも大きく役立ったそうだ。時にはだまされるようなこともあるのだそうだが、結局は「いつか返ってくると信じて死ぬまで付き合ってみよう」という人との出会いも多くなってくるものだという。そういった人脈からとっておきの情報がもたらされるようだ。

またモノやサービスの購入に関しても同様のことがいえるようで、「購入したものが何らかのいいきっかけを与えてくれる」と信じている。というよりは、信じないと幸せにはなれない、と信じている、と言ったほうが正しいかもしれない。忘れてはならないことは、このファミリーが日本を代表する資産家でもある、ということだ。このような一般的には「だまされやすい資産家なのでは?」と感じてしまうようなファミリーが、結局はそうなのだ。

 

一方的な話のみには富裕層は見向きもしない

私の事業に関してもよく助言をいただく。「顧客とパーソナルで親密な関係を構築できるか否か、あるいは、顧客の価値を高める貢献ができるか否か、ここを見過ごしていたらこれからの富裕層ビジネスなど進むはずがない」と勝田さんは言う。

ただ、実行はなかなか難しい。ビジネスである以上、なんらかの形で金銭がかかわってくることになる。それを飛び越えてパーソナルな関係を築くことが結局は事業上の幸せにつながるのだという長期的な戦略においては大いに参考にできる。勝田さんが実行しているような、「無形資産に投資すれば有形資産は後からついてくる」という考え方は多くの経営者が肝に銘じる考え方だろう。

勘違いしてはならないのは、「温かい人付き合いが幸せの源泉」ということだ。つまり、「与えても与えてくれない人」とは「温かい人付き合いができない」ということを意味しており、結局は相手の人間力が最終的には求められる。私の事業に照らし合わせていえば「一方的な話のみには富裕層は見向きもしない」という富裕層ビジネスの現実を如実に示す例といえる。

おカネについても同様のことが言えるだろう。投資してもリターンがない、では話にならない。「そのリターンはいつも経済的なものである必要はなくてね」と本人が言うとおり、手紙を送る、ちょっと立ち寄ってみる、など「本来は誰でもできること」でいいのだ。

「情けは人の為ならず」。人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分に戻ってくる。勝田さんが私にくれたサジェスチョンは本質的にこのことわざと同義だ。劇的な変化が予想される2017年のスタートに思い出しておきたい言葉である。

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